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2026/11/08 16:56
良い硯は、良い石から生まれる。
硯を選ぶとき、何を基準に選んでいるでしょうか。
産地、形、大きさ、彫刻の美しさ。
もちろん、どれも硯を選ぶうえで大切な要素です。
しかし、墨を磨る道具としての硯を考えたとき、最も大切にしたいことの一つが「石質」です。
同じ産地の硯であっても、使用される石によって品質は異なります。
雨畑硯も例外ではありません。
「雨畑硯だから良い」のではなく、「良い雨畑石を選ぶこと」が大切なのです。
これは、峯硯堂本舗が創業以来、大切にしてきた硯づくりの考え方です。
初代・雨宮峯硯が見いだした良質な石
峯硯堂本舗は、1933年(昭和8年)に初代・雨宮峯硯によって創業されました。
初代が硯づくりにおいて重視したのは、石そのものの品質でした。
雨畑の石であれば、どれでも良いというわけではありません。
同じ産地で採れる石でも、石層によって緻密さや硬さ、鋒鋩の性質には違いがあります。
初代は、その中でも特に良質な石に着目しました。
石質が緻密で、硯として優れた性質を持つ石。
そのような石を選び、集め、硯へと仕上げてきたのです。
そして、その良質な石に見られる特徴の一つが、「ねずみ足紋」でした。
ねずみ足紋とは何か
ねずみ足紋とは、雨畑真石の石肌に現れる特徴的な紋様です。
従来は「ねずみ足」と呼ばれてきましたが、峯硯堂本舗では、その特徴をより分かりやすく伝えるため、「ねずみ足紋」という名称を使用しています。
書道専門誌『墨』301号でも、この名称を紹介しました。
ねずみ足紋は、単なる装飾的な模様ではありません。
峯硯堂本舗では、良質な雨畑真石に見られる特徴として、古くから大切にしてきました。
初代・雨宮峯硯は、こうした特徴を持つ石の緻密さを高く評価し、硯の材料として選び抜いていました。
ねずみ足紋は、峯硯堂本舗が受け継いできた、良質な石を見極めるための大切な手掛かりなのです。
【写真は、ねずみ足紋が鮮明に現れた石肌】
なぜ、石質が硯の品質を左右するのか
硯は、石の表面で墨を磨り下ろす道具です。
墨を磨る面である「墨堂(ぼくどう)」には、「鋒鋩(ほうぼう)」と呼ばれる微細な凹凸があります。
この鋒鋩が墨と接することで、墨が少しずつ磨り下ろされていきます。
良い硯を考えるうえでは、この鋒鋩の状態が重要になります。
細かく均一な鋒鋩を整えるためには、石そのものが緻密であることが大切です。
また、石の吸水性も使い心地に関わる要素の一つです。
峯硯堂本舗では、こうした石の性質を見極め、硯としての機能を十分に引き出すことを重視しています。
良い硯を生み出す三つの要素
良質な石を選ぶことは、良い硯づくりの出発点です。
しかし、優れた石があれば、それだけで良い硯になるわけではありません。
峯硯堂本舗では、三つの要素を大切にしています。
1.良質な石質
まずは、硯に適した石を見極めること。
石の緻密さや性質を確かめ、良質な材料を選びます。
2.受け継がれた天然砥石
墨堂の仕上げには、砥石が重要な役割を果たします。
峯硯堂本舗では、荒目の大村砥、中目の上野砥、細目の対馬砥など、天然砥石を用いて段階的に磨き上げています。
石質に応じて適切に仕上げることで、墨を磨るための鋒鋩を整えていきます。
3.職人の技術
石を見極め、彫り、磨き、仕上げる。
それぞれの工程には、長年の経験と技術が必要です。
峯硯堂本舗では、代々受け継がれてきた伝統技術によって、一面一面の硯を製作しています。
石質、天然砥石、職人の技術。
この三つが揃って初めて、良い硯づくりにつながると考えています。
良い硯は、墨の表現を支える
硯の役割は、単に墨を磨り下ろすことだけではありません。
どのように墨が磨られるかは、墨液の状態にも関わります。
墨を構成する煤の粒子や、その集まりがどのように水中に分散するか。
それによって、墨のおり方や磨り心地、紙に書いたときの墨色の表情にも違いが生まれます。
墨色は、単に黒ければ良いというものではありません。
筆跡の濃淡、滲みの広がり、墨色の奥行き。
書の表現には、さまざまな要素があります。
良い硯は、墨が本来持つ力を引き出し、書の表現を支える道具です。
雨畑硯を選ぶときに知っていただきたいこと
雨畑硯には、さまざまな石質のものがあります。
同じ「雨畑硯」という名前であっても、石の性質や仕上げによって違いがあります。
だからこそ、硯を選ぶときには、産地名や外観だけでなく、石そのものの品質にも目を向けていただきたいと思います。
ねずみ足紋は、その石質を知るための手掛かりの一つです。
そして、良質な石を選び、その特性を生かして仕上げることが、硯職人の大切な仕事です。
ねずみ足紋が現れた雨畑真石天然硯「剣」
峯硯堂本舗では、良質な雨畑真石を使用した天然硯を製作しています。
その一つが、雨畑真石天然硯「剣」です。
この硯には、良質な石質を示す繊細なねずみ足紋が現れています。
天然石ならではの美しさと、石質を生かした職人の技術をご覧いただける一面です。
雨畑真石天然硯「剣」
寸法:縦 約19.8cm × 横 約12.0cm × 厚さ 約1.8cm
価格:242,000円(税込)
商品ページ:
https://houkendo.base.shop/items/165038825
甲州雨畑硯 峯硯堂本舗
1933年創業。
山梨県富士川町に工房を構え、甲州雨畑硯の伝統を受け継いでいます。
四代目・雨宮峯硯は、2017年に厚生労働大臣表彰「現代の名工」に選ばれ、2018年には黄綬褒章を受章しました。
峯硯堂本舗が大切にしているのは、良質な石を見極め、その特性を最大限に生かすこと。
そして、墨を磨る道具としての硯の品質を追求し続けることです。
良い硯は、墨の力を引き出し、書の表現を支える。
石を見極め、鋒鋩を整え、使う人の書へつなぐ。
それが、私たち峯硯堂本舗の硯づくりです。